「可愛い君へ」
「赤ん坊の頃以来一度も会うことの叶わなかった、可愛い私の娘へ」
「君は覚えてないだろう。君が生まれたとき、外は大嵐で」
「リニアが止まってしまってね、パパは君の誕生の瞬間に立ち会えなかった。」
「ママは大目玉さ。」
「初めて君の顔を見た日のことは、今でもはっきりと覚えている。」
「病室の扉を開いた瞬間、目の前がパッと明るくなった。」
「パパは思ったものさ。」
「この子は俺の子じゃなくて、神様の子なんじゃないかって。」
「親バカだね。」
「マルミ」
「パパは忙しかったんだよ」
「君とママを守るため、必死で働いた。」
「でも、ママはそれが不安でたまらなかったみたいだ。」
「マルミ、大人はね。子供が思っているほど強くはないんだ。」
「ママもパパも心配性だ。」
「目の前の不安の種から、目をそらし続けていたのがパパ。逃げ出したのがママ。」
「今になってよく思う。」
「自分たちは、離れ離れになるしかなかったんだ、と。」
「マルミ」
「今の君には、この手紙は難しすぎるかもしれない」
「わかりにくかったら、もう少し大人になってから読むといい。」
「人生の先輩として君に伝えたいことを、この手紙に託す。」
「ひとつ」
「友達を大事にすること。」
「気の置けない、なんでも話せる親友に、いつか必ず出会える。」
「遠く離れていても、ちゃんと連絡をとること。」
「相手が落ち込んでたら、遠慮せずに励ますこと。」
「不器用だっていいんだよ。」
「相手を傷つけるかもしれないなんて、杞憂だ。」
「友達を支えてあげなさい。」
「相手のためじゃないぞ。」
「自分のためだ。」
「ひとつ」
「いつも笑顔でいなさい」
「女の子の笑顔は、みんな大好きだ。」
「それにね、そうしていつも笑っていたらば」
「君がいつか大きな壁にぶつかって、笑顔が作れなくなったとき。」
「周りがきっと、助けてくれる。」
「自分のために、笑いなさい」
「ひとつ」
「人の悪口を言う時は、言った分だけ人から言われていると思いなさい。」
「人から悪口を言われたくないなら、悪口を一切口にしない。」
「どっちかにしなさい。」
「中途半端が一番見苦しい。」
「付け加えておくよ」
「人は必ず、誰かに嫌われる。」
「覚悟しなさい。」
「誰かに嫌われたらすっぱりと諦めて、なるべくその人と関わらない。」
「大丈夫。」
「相手にとっての君は、自分の横を通り抜ける、ただの通行人だ。」
「気にすることはない。」
「長くなってしまったね。」
「でも、これがパパの言いたかったこと。」
「ああ、最後にひとつ」
「これはただの私事だけど」
「君の前に、茎島アヒャという男が現れるかもしれない。」
「その時には、にっこり笑ってお茶を出してやってくれないか。」
「素行も顔も悪い男だが」
「パパの大親友だ。」