僕らは2度死ぬ3度死ぬ









 「人格とは」 
誰かが言った。

「人格とは、環境が作り出すものであって、
 人間が真っ当な道を歩むか外道になるかは周りの環境が決めるのである」
最もな意見だ。
「環境により形成された悪しき習慣は、その人間の記憶の中に強固にインプットされているものであり、
 矯正教育や職業訓練で消えるものではない」
ボクもそう思う。
現に、この国での過去の再犯率の高さがそれを物語っていたのだ。
…だからといって、これはないんじゃないかな。


「忘身刑」


 ボウシンケイと読みます。
ボクが生まれるより17年ほど前に出来た刑罰で、
「更生の見込み無しと判断された者」や「再犯を繰り返す者」に下される刑であるらしい。
受刑者はしばらく拘置所に収容された後、忘刑台と呼ばれる装置に連れてかれ、
頭にコードをいっぱい付けられて、刑務官がポォンと優雅にスイッチを入れる。
次に気付いたときには自分が誰であったのか、どこにいるのか、全てを忘れてしまっている。
忘刑台とは、人の一切の記憶を消去できる装置なのだ。

 その後は?管理局の人に誘導されるがまま、健全で忠実な労働力として
この国の労働ヒエラルヒーを支え続けることとなるんだ。
詳しいことはわからないけど、受刑後5年は週1の保護観察と毎日の日記が義務付けられるとのこと。
噂では執行時にICチップが埋め込まれ、常に居場所が管理局に筒抜けになるとも。

 この制度導入から、犯罪者の再犯率はぐっと減った。
しかし、忘身刑を避難する声はあるらしい。
「記憶を消したとはいえ、犯罪者を世に放つのはどうなのか。」と。
ボクも、そう思う。
…複雑だけど。


 ボクは四方を看守に囲まれて歩いていた。背中に回された両手首には仰々しい手錠。
その冷たさは腕を伝ってボクに嬉々とした声で囁きかける。
「もう諦めな。犯罪者さんよ。」
拘置所の廊下はひやりと無機質な白。
ちらりと脇に目を移すと、ボクと同じツナギを着た人が鉄格子の向こうでうなだれている。
なんだあの表情。もう執行を受けた人か?

 ボクの入る居房はどこになるだろうか。
見ると居房はどうやら2人部屋であるようだ。
おそらくは誰かと相部屋になるのだろう。
…ボクには危惧してやまないことがある。

       掘 ら れ た ら ど う し よ う
                          , '´  ̄ ̄ ` 、
                         i r-ー-┬-‐、i
          |\           /|  | |,,_   _,{|
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          |   へ ::::::: へ   .|   て━━━━━━━━━━━
          l u     _      l 'Y''~ヾ 
          ,ヽ,_____ ノ__l __ノ 
         /  \/ヽ  /\/  \


映画とかでよくあるじゃないか!女に飢えた囚人に夜中に襲われて…
うわぁぁぁぁぁアッーーーーー!!
だめだ!それだけは勘弁してくれ!
刑を受けても消せないトラウマが生まれること請け合いだ!

 カツン、と音を立て、前方の看守が足を止める。ボクの心臓も一瞬止まる。
アニキがいたらどうしよう。頬染められたらどうしよう!
巨大な鍵がガチャリと開けられる。
「入りなさい」







つづく


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