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( ´_ゝ`)「人はどうして犯罪を犯すと思う?」

105番さんはよく通る低い声でボクにそう言った。
まっすぐにスッと通った高い鼻、涼しげな目。
彼は男のボクから見てもため息が出てしまうくらい整った顔立ちをしていた。

(,,^Д^)「どうって…いろいろじゃないですか?」

ボクは雑誌をペラリとめくる。
そこには流行りのファッションや俳優、最新の電化製品などが
こぞって自己主張をしているようにひしめいているが
今のボクたちにはまったく不必要なものばかりだ。

(,,^Д^) 「お金がないとか、恨みがあってとか、ただ単に楽しいだけとか。」
( ´_ゝ`)「“単に楽しいだけ”…か。」

105番さんはため息を漏らす。

( ´_ゝ`)「なら、犯罪を“楽しい”と思わせるような人格はどうやって作られる。」

ボクは前の同居人の言っていたことを思い出していた。
“人格は記憶から作られる” “人を動かすのは潜在意識”

(,,^Д^)「これまでの経験とかじゃあ…」
( ´_ゝ`)「俺はそうは思わん。」
(;^Д^)「…っ?」

105番さんは静かにかぶりを振った。

( ´_ゝ`)「俺の娘は1歳の頃、生まれて初めてトマトを口にして、すぐ吐き出した。
      おそらく口に合わなかったのだろう。それからずっとトマトは嫌いなままだ。
      この“トマトをまずいと思う人格”はどこから来ている。経験か?違うと思うね。」
( ´_ゝ`)「おかまバーに行ったことあるか?連中の半数以上はこう答えるよ。
      “物心ついた時から心は女だった”ってよ。」

オカマ…?
なんだか以前こういう話を誰かとしたようなしなかったような。
ボクにオカマの知り合いなんていただろうか。
それはそうと、目の前にあぐらをかく105番さんの言葉には
妙な説得力が含まれていて、ボクは彼の意見の方に揺らぎそうになる。 
     
( ´_ゝ`)「そりゃあ人格を作る要素の大半は経験だろう。
      でも俺は確信している。
      人格には記憶に左右されない、生まれついての“芯”があるってことを。」

105番さんの目元の深い彫りに影が落ちる。
俗に言う「イケメン」とはまた少し違う、大人の男の風格を漂わせるその人の
語る内容は決してかっこいい男のそれではなかった。  

( ´_ゝ`)「だ か ら 俺 が 変 態 な の も 仕 方 が な い ん だ 。」
(;^Д^)「はいっ!?」
( ´_ゝ`)「事の始まりは小学校6年生。
      風の強い日でね、帰宅途中目の前を歩く女子中学生の
      スカートが大きくめくれてパンツがあらわになったんだ。
      俺はそれを目撃した。」
( ´_ゝ`)「異常に汚ぇパンツだったんだよ。
      あんな整った小奇麗な顔ですまして歩いてやがるのに
      パンツはきったねえぇぇぇぇの!興奮したね!
      俺はダッシュでトイレに駆け込んだ。精通だった。
      以来俺はことパンツに関して異常に興味を示すようになる。」
( ´_ゝ`)「パンツはいい。女物がいい。シンプルがいい。レースもいい。Tバックもいい。Oバックもいい。
      サニタリーもいい。媚びてるのもいい。勝負パンツもいい。ババくさいのもいい。
      男物もいい。トランクスがいい。ボクサーもいい。一周回ってブリーフもいい。
      ブーメランもいい。ふんどしなんか最高だ。
      洗ったものよりも脱ぎたてがいい。体温を感じられる物がいい。
      先刻まであいつの股間を守っていたのがこれで今はこれに守られていない。
      それを考えるだけでゾクゾクする。
      ふふ…パンツ…パンツ!」

彼の口調がだんだんと変わって、強いそれになっていく。

( ´_ゝ`)「パンツパンツパンツ!
      パンツは人だ。パンツは世界だ!パンツは宇宙だ!!
      パンツは心だ!パンツが汚ぇ奴は心もだらしねぇ!!
      パンツは拠り所だ!一部のふてえ野郎を除いて皆パンツユーザーだ!
      パンツ無しでは不安だろう!パンツがなけりゃ生きてけないんだよ人間はよぉ!
      パンツは美だ!お前らのきたねぇみっともねぇ〇〇や××を
      様式美に変えるんだああぁぁああああ!!!!
      布切れだぞ!あんなちっちぇえ布切れが夢も!期待も!コンプレックスも!恥じらいも!
      痛みも!失望も!愛も!葛藤も!思い出も!執着も!体温も!友情も!勇気も!
      希望も!苦しみも!迷いも!涙も!マゾヒシズムも!感動も!偏見も!自尊心も!
      全てを優しく包み込むそれがパンツなんだよおおおぉおぉぉおおおお!
      ああああああああぁぁパンツが好きだあぁぁああああああ!!!」

彼の長い叫びはここで途切れた。
ただハァ…ハァ…と肩で息を切らし、長い指で額の汗を拭う。

(;´_ゝ`)「・・・・・・・・・・俺変態だろう?」
(;^Д^)「変態ですね…」

105番さんは右手で目元を覆う。

(;´_ゝ`)「わかってんだよ!?おかしいってのは。
      止められないんだよ。下着を見ると理性が飛んじまう。
      俺の罪状は下着泥棒。
      干してるものを持ち去るなんて無粋な真似はしない。
      正々堂々と使用中のブツを脱がして盗むという通り魔的犯行。  
      …2回捕まったよ。
      1度目の逮捕で妻と子を失った。
      …そうだよな。変態の家族はいらないよな。かわいそうなことをした。
      2度目の逮捕。
      そうだ、保釈後も歯止めは聞かなかった。だから俺はこうしてここにいる。」    
(;^Д^)「・・・・・・なんで我慢できなかったんですか。
      こうなるって、分かってたでしょう?」
(  _ゝ )「・・・・・・ガマン?」

105番さんの目つきが変わる。

(  _ゝ )「我慢だと!?」













































「俺を救ったと思うなよ」

強大な自信と、強烈な自己嫌悪。

二つを抱え込んだまま忘刑台に向かった105番さん

彼は受刑後、どうなったのだろう。

ボクはそっと祈る。

彼の心から一切のものがなくなっていますように。









ボクの忘身の日は、いつだろう。












つづく


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